築地・豊洲移転

【解説】豊洲市場への移転延期による、東京都の補償スキームの内容

築地市場の豊洲への移転が延期されたことに伴い関係者の方に生じる損害への補償について、昨日(1/27)東京都から発表がありました。

「豊洲市場への移転延期に伴う補償スキームの策定について」(東京都HP)

「スキーム」とはこんな方針とか基準でやっていきますよというような枠組みのことです。(流行りのカタカナ語でわざわざ分かりにくくしなくてもいいと思うんですけどね。)

発表された文書の中で東京都は豊洲市場への移転延期により発生した損害に対して「公正、迅速かつ誠実な補償を実施する」と宣言しています。

豊洲への移転を見据えて準備を進めてきた業者さんにおかれましては、具体的にどんな準備行為に対して補償がなされるのかということについて重大な関心をお持ちのことと思います。

「公正、迅速かつ誠実な補償」とはどういうことなのか。都が発表した補償基準や運用指針を紐解いてみましょう。

▼目次

  1. 補償の対象者
  2. 補償の原則
  3. 契約と費用発生、それぞれの時期に注意
  4. 具体的ケースの検討
  5. 最後に

補償の対象者

今まで築地市場で事業を行い、豊洲移転へ向けて準備をしてきた業者の方が対象となるのは確実と思われますが、それ以外にも都から「個別的、具体的な勧告ないし勧誘」を受けて豊洲移転に向けて何らかの活動を行っていた方も補償の対象になる可能性があるので、対象になるか微妙なラインの方は都に確認してみるとよいかと思います。

補償の原則

「積極的損害」を対象とし、「消極的損害」と「精神的損害」は対象とならないとのことです。

難しい言葉が出てきました。精神的損害はまあいいとして、積極的・消極的損害とは何なのでしょうか?

今回のような補償にまつわる話では、一口に損害といっても色々な事情にもとづく損害があるため、グループ分けしてそれぞれに対して補償をするかしないかを決めるというような考え方をします。

損害の分類

積極的損害とは今回の場合では移転が延期となったために出費することになった費用のことです。例えば移転を見越して発注していた設備の納入をキャンセルしたことに対して求められた違約金は積極的損害として認められる可能性が高いです。

一方、消極的損害とは予定どおり移転されていれば得られたであろう利益のことです。例えばもし予定通りに豊洲で営業していれば、今それによる収益を手にしていたはずです。その収益が手に入らなくなったわけだから、その分は損害と言ってもいいんじゃないかという理屈も一理ありますよね。まだ手にしていないものなので見えずらいですが、こういうのも広い意味での損害に入ります。

今回の豊洲移転延期に伴い補償の対象となる損害は、財産的損害のうち積極的損害に限ると都は言っています。その根拠として、過去に類似の問題が起きた時に最高裁判所が出した判決を参考に今回の補償スキームを作ったということです。この判決の中で、積極的損害については補償すべきというような趣旨のことが述べられています。

最高裁判所 判例集 昭和56年1月27日

ここまでで補償の対象者と、どんな損害が補償対象になるのかについての原則は何となくわかってきました。でもまだ何となくしかわかりませんね。

契約と費用発生、それぞれの時期に注意

今回の移転延期に伴い都が補償しましょうと言っている「損害」は財産的損害のうち積極的損害であり、積極的損害とは、移転延期となったために出費することになった費用というわけですが、これに該当するかを判断するために抑えておくべき重要なポイントがあります。

それは契約と費用発生、それぞれの時期です。

例えば、都が移転を延期すると表明した日以降はもはや予定どおりに豊洲へ移転することはないと判明したわけですから、あえてその日以降に契約した設備の費用まで補償せよと要求するのはさすがに無理がありますよね。

そういう点を考慮して、契約の時期と費用発生の時期を定めて、その期間に合致するものに限って補償するとしています(補償基準の第五条に書かれています)。

ここまでを一度整理しておくと、都が補償すると言っているのは移転延期となったために出費することになった費用で、かつ一定の時期に契約されて一定の時期に支払った費用であるという話になります。

この「時期」の問題を考えるにあたり、起点となる日があるので覚えておきましょう。

補償の起点となる日

  • 1.都から豊洲への移転勧告を受けた時
  • 2.都が移転延期を表明した日(平成28年8月31日)
  • 3.当初予定していた移転日(平成28年11月7日)

1についてはどのタイミングが該当するのか、今回発表された資料には残念ながら明記されていませんでした。原文そのまま載せますと「補償対象者が、都から豊洲市場への移転又は進出に係る具体的な勧告ないし勧誘を受けた時」となります。

要するに、豊洲へ移転するのでそのつもりでと知らされた時といった意味合いでしょうが、これに関しては一律に決められず、個別の事情に合わせて決まるもののような気もします。

2、3については明確なので大丈夫だと思います。

さて、ここから少しややこしくなります。(もうすでにややこしくなってる気もしますが・・・)

「移転延期となったために出費することとなった費用」も大きく2つのグループに分類することができ、それぞれの分類によっていつからの費用が補償されるかが異なります。抽象的な話だとわかりにくいので具体例でいきましょう。

グループ①

「リース契約をした設備が豊洲に置いてあるが、リース料は補償されるのか」

契約・費用の発生時期による補償の制限①

このケースではリース契約をした時期が1と2の間であれば、3以降の期間に発生したリース料について補償が受けられることになります。抽象化した言い方をすると、「豊洲市場の施設のために投じた費用のうち、使用せず無駄になっている分」となるでしょうか。

注意したいのは「使用せず無駄となっている」とみなされるのは3以降に発生した費用、つまり当初予定していた移転日である昨年11月7日以降に発生した分であるとされていることです。それ以前に発生した費用については無駄にはなっていないという考え方のようです。

以上が第一のグループです。

グループ②

「築地で営業を継続するとなると、老朽化した設備を修理したりして使い続けなければならない。修理費等は補償されるのか」

契約・費用の発生時期による補償の制限②

このケースでは修理依頼の契約時期が2以降であれば、掛かった費用について補償が受けられることになります。抽象化した言い方をすると、「移転延期が判明したときから、それに対応するため投じた費用」となるでしょうか。

以上が第二のグループです。もう一つ例を挙げると、移転を見越して豊洲市場の施設へ設置していた什器を築地市場の施設で使うため、豊洲から築地へ運ぶのにかかった費用についてもこのグループに入ります。

具体的ケースの検討

ここまででだいぶ、補償の対象となる具体的なケースを検討する下地ができてきました。ここからはいくつかのケースを見ていき、上述した①②のグループのどちらに分類されるかを考えていきたいと思います。

まず以下のようなケースは①に該当すると考えられますので、先述したように契約時期と費用発生時期に注意しつつ、補償を受けられる可能性があります。

契約・費用の発生時期による補償の制限①

「適切なメンテナンスがなされず放置したままの状態で置いていると、いざ開場したときに正常に動作しない設備が豊洲にある。そういった設備のメンテナンス費は補償されるのか」

「豊洲での新規事業のため、新たに人を雇っているが、その分の人件費は補償されるのか」

「設備投資のための借入金に対して発生する利息については補償されるのか」

「豊洲への移転を告知するために費やした広告費は補償されるのか」

「通電しておかないと結露して故障する設備が豊洲にある。それを防ぐための電気代は補償されるのか」

「移転についてのコンサルタント料を引き続き負担しなければならないが、それについては補償されるのか」

次に②に該当しそうなケースです。こちらも契約と費用発生の時期の制限がありますが、①よりは複雑でないので考えやすいと思います。

契約・費用の発生時期による補償の制限②

「築地の施設にある冷凍庫は老朽化が進んでいるため、分解点検する必要があるがそれに要する費用は補償されるのか」

「築地で営業を継続するとなると、老朽化した設備を修理したりして使い続けなければならない。修理費等は補償されるのか」

「築地事務所内のエアコンが故障したが型式が古いため修理もできない。買い替える場合に補償を受けられるか」

「豊洲に置いてある設備や什器を有効活用するため、築地へ運びたい。運送費は補償されるか」

なお、どのケースでも「最低限必要になる部分」に限って補償するとか、「相当因果関係を欠く分は控除」などの規定が存在し、補償されることになっても申請した満額が必ずしも認められるわけではないことに留意しておく必要があります。

また、基準や運用指針の原文を読んでいただくとわかると思いますが不明瞭な点も多くあるため、今後開催される予定の説明会や個別相談会にて詳細を確認することが必要です。

最後に

本稿ではできるだけかみ砕いて書いてきましたが、その分厳密性に欠ける面もあります。ですがこの問題について早期解決のための一助になればとの思いから、今回の補償の原則的な話について書かせていただきました。一日も早く市場関係者の皆様が正常営業できるようになることを願っております。

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