※当記事は、2017年5月に成立し、2020年4月から施行された改正民法(債権法)に関する解説記事です。
1 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
(1) 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
(2) 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
3 第1項第2号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
4 第548条の2第2項の規定は、第1項の規定による定型約款の変更については、適用しない。
新設(該当規定なし)
ポイント
- ・一定の要件のもと、定型約款準備者は、相手方の個別の同意なく定型約款を変更し、契約の内容を変更することができる。
- ・契約の目的に沿ったものであり、かつ変更の合理性が認められる場合に、定型約款の変更が認められる。(1項)
- ・定型約款の変更をする場合には、一定の手続きが必要である。(2項)
定型約款の変更に関する条文の必要性
契約の原則に照らせば、相手方の同意なく一方的に契約内容を変更しても、法的に有効とはならないはずです。しかし、事業者側にとって、法令の改正等により約款変更が必要となる場面は、特に変化のスピードが速い今日の社会においては珍しくないでしょう。
定型約款の一方的な変更により相手方が被る不利益と、事業環境の変化に応じて柔軟に約款内容を変更できる経済合理性とのバランスを取るために、定型約款の変更に関する要件や手続きが規定されているのが、改正民法第548条の2です。
定型約款を変更できる要件
第1項では、(1)又は(2)の場合に、相手方の同意なく定型約款を変更し、契約内容を変更することができるという要件を規定しています。
(1)は、相手方の利益になるような変更ということで、相手方が不利益を被るようなことがないのであっさりしています。
より重要なのは(2)で、定型約款の変更により相手方が不利益を被る恐れがある場合を想定した要件です。要約すると、定型約款の変更が契約の目的に沿ったものであり、かつ変更の合理性が認められる場合ということになります。
合理性が認められるかの判断基準として、
- ・変更の必要性
- ・変更内容の相当性
- ・変更規定の有無及び内容
- ・その他の事情
等を考慮する、という構成となっています。
これらの合理性の判断基準はあくまでも一例であり(例示列挙)、その他、定型約款の変更に関するあらゆる事情を考慮して合理性の有無が判断されます。
定型約款の変更手続き
第2項では、第1項の要件を満たすことを前提として、実際に定型約款を変更する場合に必要な手続きについて規定しています。
具体的には、定型約款変更の効力発生時期を定め、その時期が到来するまでに以下を周知する必要があります。
- ・定型約款を変更する旨
- ・変更後の定型約款の内容
- ・効力発生時期
そして、効力発生時期が到来するまでに上記の周知をしなかった場合は、変更の効力は生じないと規定しているのが第3項となります。
みなし合意除外規定は、本条には適用されない
第4項が少しわかりにくいかもしれません。
まず、548条の2第2項がどんなものだったかというと、信義誠実の原則に反し相手方の利益を一方的に害するような定型約款については合意があったとはみなさないという、相手方保護のための規定でした。
この規定は本条第1項には適用しないということを第4項では述べているわけですが、相手方保護の厳格さという点で比べると、より厳格に相手方保護について規定しているのが本条第1項の方になります。
相手方の同意なく一方的に契約内容を変更することは相手方の利益を害する恐れが高いため、より厳格な規定により相手方の保護を図る必用があるというわけです。
そのため、定型約款の変更の有効性に関しては548条の2を適用するのではなく、本条第1項の判断基準を用いてより厳格に判断しようという趣旨で、第4項が設けられているということになります。