※当記事は、2017年5月に成立し、2020年4月から施行された改正民法(債権法)に関する解説記事です。
1 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合の事実を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。
1 前3条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から1年以内にしなければならない。
2 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。
目次
ポイント
- ・起算点について、不適合を「知った時から」とし、売買のものと平仄を合わせた。
- ・不適合の旨を「通知」すればよいこととし、注文者の負担軽減を図った。
請負において法律関係の早期安定を図るための規定
請負人の立場からすると、目的物を引き渡した後もその瑕疵について無期限に、あるいは長期にわたって責任を問われる可能性が残されているとすれば酷なことです。
また、時間が経つほど瑕疵なのかどうかや瑕疵の程度も曖昧になっていきます。
請負契約における担保責任の追及において、こうした請負人の保護や法律関係の早期安定を図るために設けられている規定が637条となります。
今回の改正では、請負人の保護や法的安定性という大きな目的は維持しつつ、売買との類似性や担保責任追及時における注文者の現実上の負担を軽減するといった観点から改正がなされました。
権利行使期間の起算点を売買に合わせた
請負人に対して注文者が担保責任を追及できる期間として、現行の637条においては「仕事の目的物を引き渡した時から」(あるいは「仕事が終了した時から」)1年としています。
この点について、請負と売買は法的に形態が類似しており、両者で異なる規定内容となっているのは非合理であるとの指摘が従前からありました。
売買における担保責任の期間制限に関しては566条に規定されており、そこでは「買主が事実を知った時から」(現行)、「買主がその不適合を知った時から」(改正後)という文言になっています。
この指摘を受け、請負に関する規定である637条についても売買と平仄を合わせ、改正後は「注文者がその不適合の事実を知った時から」という内容に改められました。
担保責任追及時の注文者の負担を軽減
担保責任を問うことができる期間内に注文者がすべき行為については条文上は不明確ですが、これについては判例により、担保責任を追及する意思を裁判外で明確に告げることで足りる(=裁判上の権利行使までは必要ない)としつつも、「損害賠償請求する旨を表明し、損害額の算定の根拠を示す」こと等が求められていました。
担保責任の追及において損害額算定の根拠を示すことまで注文者に要求するのは実務的に負担が重すぎるとの批判があり、それを受けて改正後は契約不適合の事実を「通知」すれば足りることが明記され、注文者の負担軽減が図られることになりました。
「通知」後の権利行使期間に対しては消滅時効の一般原則を適用
注文者が請負人に対して契約不適合を「通知」することができる期間は「事実を知った時から1年」以内となりますが、通知したうえで行使する権利、すなわち追完請求権や報酬減額請求権、損害賠償請求権、解除権の行使可能期間については消滅時効の一般原則(主観的起算点から5年、又は客観的起算点から10年)が適用されることとなります。