1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
心裡留保とは
例えば冗談で「ジェット機を買ってあげよう」と心にもないことを言ったとしても、相手が承諾すれば法律上は一応有効となり発言者は相手にジェット機を買い与える法的義務が生じます。ただし、明らかに冗談であるとわかるような状況であれば法律上の効果は何も発生しません。心裡留保とはわかりやすく言い換えればウソや冗談ということになります。
契約は当事者双方の合意で成立し、一度契約が成立するとそれに基づいてお互いに権利や義務が発生するのが原則ですが、お互い冗談とわかっている会話にまで適用されてしまうと世の中窮屈になってしまうのでそれは無しにしようという、世間一般の常識的感覚を表している規定といえます。
真意まで知らずとも冗談であると分かれば十分
さて、但し書きの部分について「明らかに冗談であるとわかるような状況であれば」法律上の効果は発生しないと述べましたが、改正前93条の文言を厳密に解釈するとちょっと違うということがわかるでしょうか・・・?
改正前93条の但し書きでは「表意者の真意を知り・・・」となっています。これを厳密に解釈しようとすると、無効となるためには冗談であることを知っているだけでなく、発言者の真意、すなわち発言者が何を考えて冗談を言ったのかまで知っていることが必要と解されます。
発言者はジェット機の本物ではなくプラモデルを買ってあげるつもりで言ったのかもしれませんし、そもそも何も買ってあげるつもりもなく言ったのかもしれません。真意を知っているとはそういうところまで知っていることになりますが、現実には困難ですし、無効とするには冗談で言っていることがわかればそれで十分であると考えるのが自然です。
その点についてはこれまで明確な判例もなく、解釈上の議論が行われていたため、今回の改正で明確に表現されることになりました。
また、冗談であることを知らない第三者が取引関係に入ってきた場合、冗談であることを知っている当事者とそのことを知らない第三者とでは後者の方が保護に値します。これまでは心裡留保の規定の中には第三者保護規定がありませんでしたが、通謀虚偽表示(改正前94条2項)と類似のケースと考えられるため、通謀虚偽表示の規定を参考に第三者保護規定が設けられることになりました。
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